リレーエッセイ
2021.04.06
第11回 学部6期生 齋藤沙織さん
第6期生の齋藤沙織です。前回の安藤さんから話をいただき、迷いましたが引き受けることにしました。
卒業後、私は東京の総合病院の救急救命センターで3年間勤務しました。その後結婚を機に山形に戻り6年近く眼科のクリニックに努めました。そして今は訪問看護をやっています。訪問看護に勤務したばかりの頃は病院とは全く異なる、在宅が主になる状況に戸惑うことも多くありました。でも2年経過した今はとても楽しんでできています。
その2年の中でも印象に残ったご利用者様がいます。
一人は私が初めて担当した当初99歳だった方です。自宅で転倒し大腿骨頸部骨折をしましたが、病院では「年齢的に手術は難しい、長くはもたないだろう」と告げられました。それを聞いたご家族様は家で最期まで看ると連れて帰り、訪問看護が導入されました。訪問開始時は少しでも触ると激しい痛みを訴えていましたが、次第に痛みは落ち着き、食事指導で栄養状態も改善されると元気を取り戻していきました。骨折後は寝たきりの生活になってしまっていましたが、リハビリを行うと車椅子に乗れるまでに回復し、桜の季節には一緒にお花見をすることができました。自宅のお風呂は難しかったので訪問入浴も導入しました。何回かの波を乗り越え最終的に101歳の誕生日を迎え、永眠されました。
もう一人の方は93歳で肺癌末期の方でした。癌により食道が狭窄していたため食事摂取がスムーズできず、非常に誤嚥のリスクが高い状態でした。一度肺炎で入院になりましたが、状態が改善すると退院され再度自宅に戻ってきました。食事、水分が十分に摂取できない状態のため、退院後数日すると点滴を行うことになりました。徐々にADLが低下し寝たきりになってしまい訪問看護もほぼ毎日訪問することになりました。お風呂が好きな方だったので訪問入浴を導入し、亡くなる前日もお風呂に入ることができました。私が定期訪問した時に息を引き取られたためご家族と一緒にエンゼルケアを行うことができました。そして光栄なことに、その時奥様に「どちらの浴衣が似合うか選んでほしい」と準備してあった衣装を選ばせていただきました。
訪問看護の醍醐味は、利用者様と深い信頼関係が築けることだと思います。信頼関係はすぐにできるわけではありません。何回も訪問する中で徐々に形成されていくのですが、どなたとも深い信頼関係が築けるわけでもありません。この2家族のご利用者様とはどちらのご家族とも良い信頼関係を築くことができ、必要とされ頼っていただけました。そしてご家族さまからの信頼を感じる時、私はこの仕事をしていて良かったと心から思うのです。
もしこれを読み、将来訪問看護を仕事の選択肢の一つにしてもいいと思っていただけたら嬉しいです。